日本に住むと日本の暮らし

戦後ドイツから日本に渡って、伊深村に暮らし始めた、ドイツ人 佐野えんね さんの著書。まったく価値観のことなる、生活習慣もことなる伊深村での暮らしと、文化について語っている。その語り口は、さすがに物語の国ドイツをその人生の礎とする人、とうとうと流れる大河のごとく、よどみない。日本人より日本人らしい、とはこの人に頻繁に使われる形容だが、いやいや、決してそうではない。既に日本人が和服を見捨てた中、常に和服を着用していたというところや、日本の習慣に沿った暮らしをしていた点など、一見その形容が正しいように見えるが、いやいや、彼女は骨の芯までドイツの女であった。私はたまたま、老年のエンネさんの話を聞く機会があったが、その語り口と、物腰、話の内容にすっかり魅せられてしまった。が、当時はなんのつてもなく、話しかけたい心を抑えて、帰宅した。その後も本を読んだり、折に触れてあの雄姿を思い出しては懐かしんでいた。
しかし一昨年、私はえんねさんと親戚関係になるという幸運に巡り会った。娘がえんねさんの孫と結婚したのだ。このような偶然は、やはり三十年前のあの出会いによって必然となっていたのかも知れない。おかげでえんねさんの良人君である一彦さんの記された文献も拝見する機会を得ることになり、民俗学者の目で見た暮らしや祭り、種々の言葉など、非常に興味深く拝読した。これが本になっていないのが公にとっては非常に残念だが、一人楽しめて、ちょっと小気味いい気もする。