妻を帽子とまちがえた男

オリバー・サックス 著
晶文社

病気について語ること、それは「千夜一夜物語」のようなものだ。−ウィリアム・オスラー

自然科学者と違って医者が問題にするのは、一個の生命体、すなわち、逆境のなかで自己のアイデンティティを守り抜こうとする個人としての人間である。−アイヴィ・マッケンジー
(以上、冒頭より引用)

レナードの朝」という映画の原作を書いたことで知られるオリバー・サックスは、私のもっとも好きな著者の1人だ。脳神経学者である氏は数多くの症例を本に著している。この本のタイトルである、妻を帽子とまちがえた男。彼は自分の奥さんを、どうしても帽子としてしか認識できない。横にいる奥さんを頭にかぶろうとする。一体彼はどのような世界を見ているのか。オリバー・サックスは患者と真摯に対峙し、長い長い会話からその世界を覗いてみようとする。

氏は患者を、患者という以前に1人の人として見て、話をする。氏のこの姿勢に私は強く惹かれる。氏の著作全てに患者に対する暖かい、また親しい感情が流れている。どの話をとってもそこには大変興味深い独自の世界が広がっており、時間を忘れて読みふける。全著作を持っているのは三島由紀夫別役実、そしてオリバー・サックスだ。