クラウド化する世界

クラウド化する世界

ニコラス・カー

クラウド・コンピューティングとは、自分のPCとは別のところに自分のファイルを保存しておき、それをあたかも自分のPCにあるのと同じように取り扱ったり、自分のPC以外のところにあるプログラムを使用して作業したりすることができる状態をいう。こういうとどうも想像しにくいかもしれないが、例えばヤフーやグーグルが提供しているメール、カレンダー、スケジュール管理などのサービスがそれだ。情報がPC本体に保存されておらず、まったく別の場所にある巨大なサーバーコンピュータに保存されているために、どのPCからでも、ネットに接続していれば自分のメールやカレンダーにアクセスでき、自由に情報を変更できる。

クラウド・コンピューティングという言葉はまだまだ一般的にはなじみが薄いが、わたしたちすべての行動に大なり小なり影響している。殊にネットユーザーは、おそらく意識することなく大きな影響を受けている。

この本はクラウド・コンピューティングが構築されるまでの背景を前半で分かりやすく解説し、後半では富の集中、労働市場の変化など、クラウド・コンピューティングがもたらしている影響について詳細に述べ、クラウド・コンピューティングがますます普及する中で私たちが意識しなければならないことについて教えてくれる。

最近はブログやHP、あるいは動画のアップロードを通じて私たちのようなごく一般の者が世界中の人々に情報を発信できるようになったし、また膨大な数の人がこのサービスを利用している。更に、ネット上ではこちらの好みや持っている情報(例えばお天気サイトで、私たちの住んでいる地域の実際の空模様を知らせるボタンが設置されるなど)を伝えるツールが急激に多くなってきた。雑誌のサイトではアンケートがあって、様々な質問に答えるよう要求される。

例えばアマゾンなどの本屋のサイトでは、自分が買った本の履歴を参考に、それに類した本が「おすすめ」としてグループ化されて、自分では探し得ないようなおもしろい本に出会ったりして大変有用だ。私が講読しているアメリカの科学雑誌は、ネットのHPで頻繁にアンケートを実施する。どの記事に興味があったか、これから読みたい分野は何か、雑誌への要望、などなど項目は結構多くて回答するのに20分程度かかる。アメリカ政府の官公庁のHPにも、ユーザーの意見を聞いて、要望に答えようとする姿勢がよく見られる。私は限られた省庁しか検索していないが、検索機能を使って記事を検索しても、見つからない場合は他のオプションを知らせてくれたり、見つかった場合でも、望みどおりのものが見つかったか、満足したか、などと聞いてくる。記事の終わりには必ず文章の責任者のメール・アドレスが記載されている。

このように、一昔前は情報を入手する機械であったコンピュータは今や、こちらから情報を発信する手段となった。もう一つの大きな変化は、ただで入手できるサービスが増えたことだ。ブログやHPも無料で開設できる。本屋の仮想本棚に自分の好みの本を並べることも無料でできる。多くの人がこの無料のサービスを便利に楽しんで使っている。しかしこのサービスを提供するには相当のコストがかかっている。なぜ無料なのか。そこには巧妙に仕組まれた商業的システムがある。そのシステムについては、知ってみるとなるほどとうならざるを得ないと共にほとんど感嘆するが、それは本で読んで頂くことにして、すべての物事が市場経済の論理の中で動いている世の中にあって、片方だけが利益を受けるということはあり得ない。私たちは無料のサービスを使う代わりに、自分の情報をただで提供しているのだ。しかし情報を受ける側はこれをお金に変える。こうして無料のサービスが提供されるわけだ。今や私たちは気づかないうちに、企業に奉仕している。

「ユーザーが作り出したコンテンツが商業化され続けている現状、、、これまでもボランティアは存在した。しかしいまや、以前とは比べ物にならないスケールで無給の労働者が有給の労働者に取って代わることができるのだ。」以上本文より引用
ニコラス・カーには他に次のような著書がある。
*ITにお金を使うのは、もうおやめなさい
*ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること(近日発売)