日本昭和村、里山の湯

「虫たちのしつけが行き届かなくて申し訳ございません。

目立ちたがり屋の虫たちが、お客様がいらっしゃるとうれしくなって集まってきます。おとなしくしているように言い聞かせているのですが、言うことを聞かず、お客様には大変ご迷惑をおかけしております。
目に余るようでしたら、備え付けの網で浴槽の外に出してやってください。
虫のしつけ係」

家の近くの銭湯の、外の風呂にはこんな張り紙がしてある。

この感性が私は好きだ。こんな張り紙を貼る感性を持っているというだけで、この風呂に行こうと思う。

山に挟まれた道を進んで行くと、低い山の裾にこの銭湯はある。日本昭和村の入り口の横にある「里山の湯」という風呂だ。山に囲まれているのでいろんな虫がいる。小鳥も目の前の梢でさえずっている。この季節、目の前の山の斜面には赤や黄色に色づいた楓や、常緑の樫、杉などの緑が美しい。雪でも降れば墨絵のような風景が楽しめる。

温泉や銭湯は最近ずいぶん増えて、家の近くにも繰るまで30分以内のところにいくつもある。あでやかな造花を所狭しと飾っているところ、浴槽の近くに大型テレビを設置しているところ、趣向を凝らした浴槽を用意していたり、美顔やマッサージができるところなど、本当にいろいろな風呂がある。

私が風呂に求めるのは、広い空間と、山の景色、だけ。湯などは水道の湯でも温泉でもどっちでもよい。山々を眺めながら、広い風呂に入るのが好きなのだ。言い換えれば他のものは私にとって余分なもので、風呂桶なぞはでっかいのが一つでよろしい。泡ボコも要りません。ということになると周りにたくさんある風呂でも私が好きなところはごく限られてくる。

パンより絵や音楽で生きる種類の人間である私には、何を選ぶにしてもこの感性が第一の要素だ。

あの張り紙を見るだけでも、私は楽しく、心地よい。