大千世界の生き物たち

大千世界の生き物たち
スズキコージ

娘が自分の娘に「大千世界の生き物たち」を買ってやりたいというので、本係教育長である私としては、検討しなければなるまいと思って早速買ってみた。作者がスズキコージであってみれば、なおさらである。

良い。

スズキコージは大好きな作家の一人で、絵も良いが、文章がとても好きだ。紋切り型の言葉を全く使っていない分、子供の頃の新鮮さを全く失っていない。「手のひらのほくろ村」というのが最も好きな作品である。

僕は子供のころから、自分のまわりに、人間ではない何かの生き物の気配を感じることがあって、それはカやハエでもなく、といって得体のしれないおばけなんかでもなく、しらんぷりしていると、ちゃんと姿を表してくれるのだった。
慌ててみようとするとふっと消えてしまうので、ぼくは、直接見つめないようにとっくり眺める練習をつんだ。

というのがこの本の冒頭の文章だ。このあと、まっさきに登場するのがゼレファンタンケルである。このゼレファンタンケルについては別役実のゼレファンタンケルダンスという本にもその記載がある。どのような関係にあるかは不明だが、別役とスズキコージはただならぬ関係にあると言ってよい。タンケルダンスの最後に、「コージ的宇宙探検心得」として、スズキコージの作品を読むにあたって準備しなければならないことが記されている。それによると持ち物は磁石、懐中電灯、などなど一見普通に見えるものが列記されているがその使用法は並のものではない。そして

ということで、ようやく我々も、この宇宙へ踏み込むための最初の心構えができたわけだが、もちろん、まだ早まってはいけない。入り込む前に、親しい何人かの人々に、「もう帰ってこれないかもしれないよ」ということを、それとなく匂わせた置き手紙を残しておくことが、然るべき配慮というものである。

と続く。

あの世界へいったん入りこんだ者たちは帰ってこれないかもしれないのであり、たとえ帰ってきたとしても、入る前と同じ人間であるかどうかは、保証の限りではないのである。