我が心は、機械にあらず

田坂広志 
我が心は、機械にあらず
 
遠い昔、ある王国で、貿易に成功した商人が、その褒美として、王様から、不思議なハサミを授けられました。それは、極めて切れ味の良いハサミであり、軽く触れるだけで、まるで紙を切るように何でも簡単に切れるハサミでした。そのハサミが、あまりに切れ味が良いので、その商人は、身の回りにあるものを何でもハサミで切り続けていたところ、恐ろしいことに、いつのまにか、目に付くすべてのものが、紙に見えるようになってしまったのです。

遠い彼方の国の、この不思議な物語は、現代の我々にも、大切なことを教えてくれます。便利な機械を生み出し続ける科学技術。それが、あまりにも切れ味の良い道具であるため、我々は、いつのまにか、目に付くすべてのものが、機械であると思うようになってしまったのでしょうか。

いま、世の中に溢れる「人を動かす技術」や「感動させる技術」といった言葉。そして、「感性工学」や「魅力工学」といった言葉。それは、人の心までも「技術」によって自由に操作し、感動や魅力までも「工学」によって生み出すことができるとの我々の無意識の思い込みなのでしょうか。

  我が心は、機械にあらず。

http://www.hiroshitasaka.jp/tayori/tokusen24.pdf