吉村昭 「破獄」

この本をすでにお読みになった方にとっては意外と思われるかもしれませんが、この本を読んで私は深い愛を感じました。刑務所の職員の受刑者に対する愛。本当の愛情とは何かということもこの本に語られていると思います。

これは脱獄を四回も繰り返した、実在した受刑者の物語です。戦時中、戦争直後の社会的な背景もつぶさに語られています。食料が極端に不足していた当時は、受刑者のほうが一般人よりも豊かな食生活をしていたということが意外でした。その理由というのが、食物の不足が受刑者の心理に多大な影響を及ぼし、騒乱状態を引き起こすというものです。人の原点のようなものを感じました。実際、世界的に見ても食料が十分行き渡らない国に内紛が起きているのです。

この話の中には私の全く知らなかった世界が描かれていて、そういう意味でも誠に興味ふかい小説でした。意表をつく脱獄手段は面白く読みましたが、最後の部分は久しぶりに深く感動しました。