忍ぶ川

三浦哲郎「忍ぶ川]
ここ二週間は「白夜を旅する人々]を一冊目として、一連の三浦作品を読んでいる。「忍ぶ川」は1960年に芥川賞を受賞した作品だ。三浦自身の経験に基づく作品群の中の一つで、著者が配偶者に出会ってから、ともに郷里へ旅立つところが描かれている。暗い状況ばかりを書いている作品の中では珍しく明るさを感じる作品だ。

三浦哲郎の小説はどれも出口が見えないような暗澹たる状況を書いているものが多い。10年前、20年前の私なら好きになれなかったものだ。あの頃は、努力次第で物事は好転すると信じていたので、この種の作品は嫌いだったに違いない。奇妙なことに、特に意図したわけではないのにこのような一種救いがたいような作品にはめぐり合わなかった。人生に対する姿勢が自然とそうさせたのだろうか。

が、数年前に突然体調を崩して失職するという不運にみまわれ、人生観は少し変わった。自分の言動とは関係のない、見えない力に圧倒されるということもあるのだということを、思い知ったのだった。

そういう経験があったからこそ、今、このような小説も味わうことができるようになった。

本を読むには時期というものがある。作品に描き出されている内容を自分自身が経験していればこそ、深く理解して味わうこともできる。

では自身の経験していない物事や人が描かれている作品は読んでも意味が無いかというと、そんなことはない。若い時代の読書は、周りで得難い人の人生を疑似体験することになり、そこに打ち出されている価値観を吸収することができるからだ。そういう意味で若い時に良質の本をたくさん読むことは大切だ。年齢が低ければ低いほど、精神的に受ける影響は大きい。子供が良書に親しむ環境を整備するということは、とても大切だと思う。