デルス・ウザーラ

アルセニエフ著 デルス・ウザーラ

これはロシアの地理調査隊と彼らが山中で出会ったデルス・ウザーラという人との、いわば交流を描いた話です。黒澤明監督によって映画化もされました。私は映画も見ましたが、原作から受ける感じが忠実に描き出されていてとても良い映画でした。

デルスは決まった家を持たず、山の中で獣を狩ったり植物を食べたりして暮らしています。動物も、木も、水も、彼を取り巻く全てのものを「人」として認識して、話しかけたりあるいは彼らの行動を観察して、その意図を探ろうとします。そういうふうですから、もちろん自分が食べる以上のものを捕まえたりはしませんし、彼らの縄張りにうっかり入り込んでしまった時には、謝ってからそっとその場を立ち去ります。

こんなデルスの生き様を見て、祖父母の時代にはこれに似た姿勢で暮らしていたことを思い出しました。いつの間にこんなに自然界に対して傲慢になってしまったものか。自然界を制御できると思い込むようになってしまったものか。

この間、早池峰山の麓にあるというタイマグラに暮らすおばあさんの暮らしをドキュメントした番組を見ましたが、このおばあさんもやっぱりデルスと同じような感性を持っていました。イノシシや猿に野菜をとられるが、それは自分たちが彼らの領域に侵入したからで、文句をいう筋合いではないという意味のことを言っていました。また、百姓は食いたい時に食って寝たい時に寝られる、極楽じゃ、とも言っていました。もともと時間というものは私達のものであったはずなのに、今ではどうやらそうも言えません。それから、おばあさんはある日膝が痛くなったのですが、医者に行くこともなく、それはあんまり遠いからでしょうが、お灸を据えてじっとしていて治しました。これなどは家の猫が具合悪くした時に、ひたすらじっとしていて治すのに似ています。

人間は本当はもっと単純な暮らしができるに違いないのだと、この二人を見て思ったことでした。