河を知らぬ旅人

今日は田坂広志の風の便りを紹介します。
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河を知らぬ旅人



 山奥に住む人が、旅に出ました。
 そして、旅の途上で、
 河にたどり着きました。

 彼は、生まれてこのかた、
 河というものを見たことがありませんでした。

 しかも、その河には、
 橋が架かっていました。

 旅人は不思議に思い、
 通りかかった地元の人に、
 「これは何ですか」とたずねました。

 その地元の人は、
 多くの知識を持った若者でした。

 彼は、こう答えました。


  ああ、それは、
  鉄筋とコンクリートの複合構造物ですよ。


 その答えは、
 「橋とは何か」についての
 正確で詳しい説明でしたが、
 旅人にとっては、
 不親切な答えでした。

 そこで、次に通りかかった地元の人に、
 もう一度、「これは何ですか」とたずねました。

 その地元の人は、
 豊かな体験を持った老人でした。

 彼は、こう答えました。


  ああ、それは、
  河を渡るためのものですよ。


 その答えを聞いて、
 旅人は、
 橋の本質を理解しました。


 いま、世の中には、
 この若者のような説明が溢れています。

 しかし、我々が本当に求めているのは、
 この老人の語る言葉なのでしょう。


  「意味」を語ること。


 そのことの大切さを、
 この物語は教えてくれるのです。



 2002年3月7日
 田坂広志